2021-12-06
陶器のネクタイピン・カフスが出来上がるまで
コロナ禍の難しい日々に少しずつ明るい気配を感じつつある今日この頃、皆様いかがおすごしでしょう?
タバラットデザイナーのミナミダです。
今回の記事では、タバラットとして新しい素材へ挑戦することになった陶器のネクタイピンとカフス、その生産工程を抜粋にはなりますが、みなさんにも見ていただきたいと思います。
まず初めに。陶器は土を焼き上げて作ります。お皿やマグカップなどの大きいものでも焼く前、後の大きさ・形の変化を様々に想定しながら製品としての形に整えていきますが、小さくなればなるほどその変化は大きく、形を整えることが困難になります。特にネクタイピンのような細く薄いパーツは焼いた際に反りあがり、土台との接地を難しくします。
「極力均一なサイズに。」「立体感を出しつつ、裏面を極力フラットに」
その難しい問いに応えてくださった窯元は一緒に製品づくりをしていただいた美濃焼の産地、岐阜県土岐市の晋山窯ヤマツ。形、釉薬の配合調整、焼き物の温度、何度と施策を繰り返しながら、課題を解決して頂きました。
窯元:仮型を作る→形を成型する→釉薬を調整→焼く→試作完成
私:極力形の個体差を無くしたい。それと、土台との接地面をフラットにしたいんです。
窯元:陶器の性質上、この小さいサイズではかなり難しいですが・・・頑張ってみます!
私:ありがとうございます。
窯元:仮型を作る→形を成型する→釉薬を調整→焼く→試作完成
「反りを少なくするため、裏側にくぼみをつけてみました。」
私:統一感がでてきましたね!ただ、土台との接着には凹が強いと難しくて・・・
窯元:・・・・・・・・頑張ってみます!
私:よろしくお願いします!
窯元:仮型を作る→形を成型する→釉薬を調整→焼く。
このようなやり取りの中でかかった2年という歳月。陶器で本来作るものではないタイピンやカフスのパーツに対して、熱意をもって取り組んでいただいた窯元の試行錯誤とご協力には感謝しかありません。
こうして出来上がった製品の製造現場を、写真とともに見ていきましょう。
まずこちらは、型で成形した素地を一度素焼きしたあと、釉薬を塗る前に細かなほこりなどを飛ばしているところです。この時に、形が悪いものなど検品も同時に行っています。
次に、検品を終えた素焼きに釉薬を塗っていくのですが、小さなものなので、網目のフライ上げを使い一つずつ釉薬の中にサッと浸していきます。
グレーの釉薬に浸します。
こちらはピンクの釉薬
通した後は、釉薬が均等な厚みになるように、スポンジで多めに付いた釉薬を吸い取ります。
ちなみに、ネクタイピンの台座との接着面には釉薬が付かないよう、あらかじめ撥水剤を塗布しています。
グレーの釉薬に浸します。
写真左からピンク系、グレー系の釉薬に浸した焼成前のもの、素焼きのもの
裏面はうっすらと青く、撥水剤を塗布したことが分かります。焼成時に透明になります。
釉薬を塗り終わったものを2回目の焼き、本焼成することで陶器としてネクタイピン・カフスのトップが完成するのですが、素焼き・本焼成ともに、温度によって出来上がりが変わったり、土の収縮率を考えて最初の成形をする必要があったりといくつもの工程をクリアして出来上がります。
ネクタイピン・カフスだけでは窯を埋める量がないので、隙間を使わせてもらいます。
こうして見比べると、普段作るものとのサイズ感がはっきりとわかります。
そうして出来上がったものが、どんな工程から成り立っているのか想像してみると、目の前にある”もの”以上の拡がりを楽しめるのではないでしょうか。
さて、陶器は完成しましたが、まだネクタイピン・カフスにはなっていません。台座は、タバラットのネクタイピン・カフスを制作いただいている大阪の宇内金属工業さまにご協力いただき、塗装を施した台座を作っていただきました。台座の平滑な部分と、目に見えない僅かな凹凸がある陶器との接着・・・こちらも本当に簡単ではなく、苦労がございました。
当初メッキのかかった台座も検討していましたが、陶器の質感を活かすことを考え、メッキではなくマットな塗装仕上げの台座に決定。カラーも、ブラックとグレーというモノトーンにして陶器の質感・色がより引き立つことを意識しています。
こうしてたくさんの工程を経て完成した陶器のネクタイピンとカフス。素材特有の質感は、金属や革とはもちろん異なっていて、ネクタイやシャツの繊維ともまた異なります。そこに釉薬が加わることで出来る、金属よりも柔らかい光沢感や、素地が活きるマットな質感。それらを洋服に組み合わせて生まれる新鮮さ、高揚感をぜひみなさんにも感じていただきたいです。
『今回ご紹介した商品』
陶器のネクタイピン |
陶器のカフス |